| 残雪の山 | |||||||||||||||||||||
| もっと早く出発するつもりだったが,久しぶりの遠出と,女房の車を拝借するということで,支度に手間取り,家を出たのは午前3時過ぎ。ガソリンを満タンにして,いつもなら使わない高速道路を全線使い,乗鞍高原バスターミナルに到着したのは午前7時ちょっと前。午前7時発の畳平行きのシャトルバスは目の前にいて,まだ乗客を乗せているところだったが,残念ながらこちらの支度が整っていなかった。焦って忘れ物でもしたらつまらないので,出て行くバスを見送り,1時間後のバスに乗るつもりで一の瀬園地に行き,時間をつぶす。一の瀬園地では,コルリ,キビタキ,ビンズイ,ミソサザイ,カッコウの声が聞こえたが,8時発のバスにも乗り遅れたら大変と,あまり深追いはしなかったため,はっきり姿が見えたのはビンズイだけ。ビデオでさえずりを撮るには撮ったが,白い雲がバックで割愛。 | |||||||||||||||||||||
バスターミナルを出発したときは,座席にはまだ余裕があったが,途中の駐車場でも何人か乗ってきてほぼ満席になり,自家用車乗り入れ禁止の乗鞍エコーラインを登っていった。自分の車で登れたころは,空気の冷たさも気にせずに窓を開けていたので,アカハラ,コマドリ,ルリビタキ,メボソムシクイなどの声で垂直分布を確かめながら気持ちを高めていけたのだが,窓を締め切ったバスはその点でつまらない。それでも,天候は思ったよりもよく,青空も見えている。やがてハイマツ帯に至ると,残雪が目立ち始めた。これまでで一番早い時期に乗鞍に来たのだが,これほど雪が残っているとは思っていなかった。畳平の一つ手前のバス停「肩の小屋口」では,夏スキーに来た客が降りるので,多少時間がかかった。停車中の車窓からは,登る予定の大黒岳が見えている。バス停付近とは異なり,雪はなさそうだ。これならライチョウとの出会いも期待できるだろう,と思っていたら,畳平の直前,大黒岳の登り口を見てびっくり。登山道にはロープがかかり登山禁止の札が……。工事中なのだそうだ。後で登ったほかの山も,登山道を整備したような雰囲気があったが,一番期待していたところだっただけにショックが大きかった。 畳平でバスを降り,案内所で状況を訊いた。大黒岳は登山禁止だが,魔王岳で♂を見たという話や肩の小屋でヒナが孵ったという話だった。 |
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| 今回は欲張って,背中には500mmレンズを付けた一眼を背負っている。運動不足と寝不足でなまった体で歩き回るのはちょっときつい。そう思って,とりあえず魔王岳に行ってみた。残念ながらライチョウには出会えなかったが,餌とりに夢中になっているイワヒバリが,結構近いところに寄ってきた。さえずりが撮れたらとビデオにしていたので,近過ぎてあまり撮れなかったのが悔しい。 | |||||||||||||||||||||
![]() アブのような羽虫をくわえたイワヒバリ。右は魔王岳山頂。奥の山は北アルプス。槍ケ岳も見えている。 |
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魔王岳と恵比寿岳の間には,亀ヶ池がある。魔王岳の反対側にある鶴ヶ池に対しての亀なのだろうが,恵比寿岳の急斜面から割れて落ちた雪が幻想的な深い青を作っていた。魔王岳で見られた鳥は,イワヒバリとイワツバメだけ。魔王岳から恵比寿岳に続く鞍部の辺りからはルリビタキの声がたくさん聞こえていたが,残念なことに恵比寿岳は以前から登山禁止の山なので,魔王岳山頂の少し先からは立ち入れなくなっている。一生懸命双眼鏡で探してみたのだが,姿は全く見つけられなかった。 しばらく待ってもライチョウは現れなかったので,意を決して肩の小屋まで歩くことにした。山頂から下りかけて,大きな岩にへばりつくように咲くミヤマキンバイを見つけた。登山道の側にもミヤマキンバイはそこそこに咲いていたが,いかにも高山植物といったこの風情が気に入って,記念撮影。 |
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| バスターミナルに戻り,肩の小屋への道を歩く。この道は乗鞍最高峰の剣ヶ峰に続く道だが,肩の小屋までは車も通れる広い道で,傾斜も緩く,手ぶらならどうということはない。が,背中の荷物とスコープとビデオをつけた三脚を担いでいると,途中で何度も休まなければならない(鳥を探すふりをして)。 肩の小屋に到着。さて,ライチョウはどこだろう,と探す手間はいらなかった。ライチョウはすでに出ているらしく,10人ほどの登山客が指さしたり,双眼鏡でのぞいたりしていた。もっとも半数の人は,指さされてもライチョウがどこにいるのかわかっていなかった。それもそのはず,ライチョウは枯れ草色のコケの上に座り込んでいた。距離もそこそこあるので,鳥を見慣れたこちらにしても肉眼ではわかりにくい。 ビデオをセットして,周りの人にもサービス。もっとも,それでも周囲のコケと区別がつかない人もいるくらい,ライチョウのカモフラージュは完璧だ。 |
![]() すると,ヒナは思いがけないところに出てきた。母親の傍ではなく,母親が座っていたコケの下方,雪渓の割れ目に現れたのだった。 ヒナは小さかった。これまでライチョウのヒナを見たのは8月に入ってからだったので,ヒナはしっかり育っていて,黄色みは薄れ,姿もライチョウらしくなっていたが,今,目の前に出てきたのは,掌に乗ってしまいそうな大きさだ。まだ多少よちよち歩きの感はあるが,キョロキョロする母親のことなど気にせずに雪を上を歩き始めた。 母ライチョウの近くにはヒナが隠れているはずだ,とのことで,少し広範囲が見えるように,ビデオを一眼に取り替える。 |
何の変化もないうちは,観光地の展望台にある双眼鏡よろしく周りの人たちがファインダーをのぞきこんでいたが,そのうちに,母ライチョウの傍のコケの上に何か黄色いものが飛び出した。ヒナだ。ちょっと失礼とカメラを取り戻し,とりあえず1枚撮る。 ヒナは6羽いると聞いたので,次に出てくるヒナを待った。なかなか現れない。しかし,動かない鳥も30分たてば動くはずだと自分の経験を信じて待つ。
それからは,母親の傍から次から次へとヒナが出てきた。さらに,ヒナは雪渓の上をこちらに向かって歩き始めた。ヒナがどんどん出てきてしまうので,母親も重い腰を上げ,ヒナを見守るように後に続いた。 | ライチョウファミリー(父親は不在だが)はとうとう狭い雪渓を渡り切り,登山道の下の岩場までやってきた。これはチャンス,近いところでヒナが撮れるぞと喜んだ刹那,どうしたわけか,母親が叫び始め,ヒナたちは一斉に走って岩の陰に隠れてしまった。ハシブトガラスが飛んできたのだ。 それからまた30分。また出るはずだと信じ,岩場を見つめた。
![]() うまく隠れるもので,岩の間に入ったらしく母親の背中も見えない。それでも我慢して待っていたら,一度だけヒナがコケの上に姿を見せた。しかも,日向ぼっこでもするようにあまり動かない。こうしてずっと座っていると,マガモやカルガモのヒナと同じような色彩で,あまり面白みはないが,ビデオで撮影する。 その後,ライチョウ一家は少しだけ場所を移動して,また姿を隠してしまった。そこで,違った角度からなら見えるかもしれないと少し場所を移動した。しかし,やはり何も見えない。 1時間後,ライチョウはまた出てきた。そして,今度はかなり長い間姿を見せ続けてくれた。
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![]() ▲ヒナを見守る母親 ![]() ▲警戒する母ライチョウ ![]() ▲どんどん歩くヒナ ![]() ▲雪渓の向こう側に行ってしまった ▲コケの斜面を登るヒナたち 雪渓の向こう側に渡ったライチョウ母子はコケの斜面を登り始めた。 |
これまで見てきて,ライチョウファミリーの動きの主導権はヒナが握っているように見える。もっとも,何か危険を感じて母親が叫び始めると,それまでばらばらに動いていたヒナたちが一斉に母親の元に集まるのだから,やはり母親の存在が一番というところか。 コケの斜面を横移動していたヒナたちは,ハイマツの下に母親が入ったところで行進をやめた。何羽かのヒナが母親の下に潜るのが見えた。母親も叫ばなかったし,何か危険が迫ったという雰囲気ではなかったので,緊急避難ではなく,散歩と食後の休憩かもしれない。 スチルもビデオもかなり撮れたので,ライチョウがハイマツの下に潜ったのを潮時に,イワヒバリとカヤクグリのさえずりを撮るつもりで畳平に戻ることにした。 肩の小屋に行くときは一番傾斜の緩い道を通ったのだが,畳平に戻るときは富士見岳経由にした。ライチョウの雄がいるかもしれなかったからだ。結果は期待外れ。ライチョウの雄どころか,鳥は何もいなかった。まあ,これまで一度も登ったことがなかったから,この道が石が浮いていて滑りやすいとか,植物も今一つだとかが判明したのが収穫。
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![]() もっとも,富士見岳と不動岳の間にある不消ヶ池(きえずがいけ)に雪渓が崩れ落ちているところや,コロナ観測所と剣ヶ峰が一度に見えるなど,眺めはよかった。ただ,ハイマツも少ないので,やはりライチョウを探すには大黒岳のほうがずっと確率が高そうだ。 畳平そのものは,半分近く雪に埋もれていて,立ち入り禁止になっていた。そこで,鶴ヶ池の周りでカヤクグリを探したが,数は少ないし人の往来も多いのであきらめた。バスターミナルの近くでようやくさえずるカヤクグリを撮ることができたが,すでに午後3時近く。乗鞍高原へのシャトルバスは残り3本で,次は3時10分発。昨年の最終バスが満員だったことを考えて早めに切り上げることにした。バスに乗ったとたん,急に強い雨が降り始めた。次のバスに乗るつもりで歩き回っていたらずぶ濡れになるところ。イワヒバリをもう少し撮りたかったが,終わり良ければすべて良しとしておこう。
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![]() ▲ハイマツの上のカヤクグリ ![]() ▲ハタザオとカヤクグリ | ||||||||||||||
残雪の山:2008年7月上旬