撮りたての鳥


 初夏の谷

 夜,あまりの寒さで眠れなかった。空を覆っていた雲がとれて星空が広がったせいか,標高はそれほどでもないのに車の中にいても震えがくるほどだった。同行の鳥仲間は,朝4時頃から動き出していたが,寒さで固まった体を冷気にさらす気にはなれず,だいぶ明るくなってきた5時近くになって,ようやく車の外に出た。前夜,コノハズクの声が響いていた林からは,キビタキの声が聞こえていた。

 るのが遅れたせいで,同行の3人の姿は見えなかった。そこで,下流の小さなダムに行ってみることにした。途中,あちこちでキビタキの声が聞こえたが,姿は見えなかった。6月ともなると,さすがに緑が濃く,葉の茂った高い枝にいるキビタキは簡単には見つけられない。以前,オオルリの親子を撮った辺りでも,今回は何も出てこなかった。ちょっとがっかりしたが,ダム湖に着いてほどなく,対岸の枝にとまったアカショウビンを見ることができた。ただあまりにも遠く,ピントは合っていないし,空気の揺らぎもあって,ビデオの映像は見られたものではなかった。ダム湖から道路を挟んだところでさえずっていたホオジロくらいの近さで撮りたいものだ。
遠くのアカショウビン さえずるホオジロ
 まで戻り,今度は上流側に歩いた。同行の鳥仲間が行った方向だ。

 車止めのチェーンを越えた辺りでも,キビタキが大きな声でさえずっていた。が,姿は見つけられない。山側をさがしていたとき,目の前を白っぽい鳥が飛んでいき,苔むした枯れ木の中ほどのところにとまった。オオアカゲラだった。

 白っぽく見えたのも道理で,このオオアカゲラ,やけにお腹が白かった。頭頂は全体に赤いし,背中側の白斑の形やお腹の縦班からいっても,オオアカゲラの♂に間違いはないのだが,若いのか,下腹が微妙にピンクがかっている程度。今回はたくさんのドラミングを聞き,飛ぶ姿も何回も見たが,撮れたのはこれのみだった。
オオアカゲラ
キビタキ  オアカゲラが飛び去ってしまったので,さらに上流側に進むと,今度は谷側でキビタキがさえずり始めた。

 初めのうちは薄暗い林の奥のほうにいたが,待っているうちに明るい枝に飛んできた。さすがに6月。翼の黒が引き締まり,喉は明るいオレンジ,胸から腹にかけての黄色も鮮やかだ。距離も近かったため,かなり鮮明に撮ることができた。

 ただ,これを撮りに来たのではない。ねらいはアカショウビンなのだ。さっきから遠くから声は聞こえてくるが,当然のように姿は見えない。

 次のカーブを曲がったところに,同行の仲間を含めたバーダーが集まっていた。どうやら,その辺りでアカショウビンが見られたらしい。少しでも可能性が高いならと,歩き回るのはやめ,そこで待つことにした。
 ョロロロ……という声が大きく聞こえた。待っていたカーブの谷側の林だ。ほどなく,発見の声。駆けつけてみると,アカショウビンがトチノキの枝にとまっていた。急いでビデオを構える。照準を調整してあったので,アカショウビンはすぐにファインダーに入った。口にはカエルをくわえている。
アカショウビン アカショウビン
アカショウビン  この枝でもっと長く撮れるとよかったのだが,アカショウビンはすぐに奥に飛んでしまった。しかし,そのまま姿を消したわけではなく,だいぶ奥の枝にとまって,カエルを口にくわえたままこちらを向いていた。

 ところで,アカショウビンは2羽いて,1羽は遠くへ行ってしまったが,もう1羽はトチノキの葉の陰に隠れるようにしてまだそこにいた。最初に2羽飛んできたときには2羽とも姿を露にしていたというから,そこを撮りたかったものだがしかたがない。ペリットを吐こうとでもしたのか,ビデオの映像の中には大きく口を開けたところもあった。

 このアカショウビンはずいぶん長い間この葉陰にいたのだが,三脚を立てる場所を変えてもどこからも下腹のほうまで見えるところはなかった。うまいところに隠れるものである。奥のアカショウビンが飛んでからしばらくして,しっかり監視しているつもりだったが,このアカショウビンもいつの間にか姿を消していた。
 カショウビンの声が聞こえなくなったので,その場を離れ,さらに上流側に向かった。支流の沢に架かる橋まで行くと,橋の下流側の枯れ木でオオルリがさえずっていた。今回はビデオと一眼の両刀遣いでいくつもりだったが,このときはカメラを担いでいたので,撮りあえずさえずっているところを撮った。もちろんこんな大きさで撮れたわけではないが,けっこう細かいところまで写っていた。仲間のところに戻り,今度はビデオに取り換えて橋まで行った。オオルリはまださえずりを続けていた。初夏の谷に響き渡るいい声だった。
オオルリ(スチル) オオルリ(ビデオ)

初夏の谷:2008年6月上旬

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