MILANO

 前5時。ホテルの前庭に出ると,どこからか鳥の声が聞こえてきた。もっとも辺りはまだ真っ暗。姿は見えない。が,ジッジッという下のほうの声とキュルキュルという上のほうから聞こえる声と,二つの鳴き声からすると鳥はどうやら2種類いるようだ。

 姿は見えなかったが,地鳴きの鳥が近づいてきた。とにかく未明の空にはまだ星がきれいに瞬いている。街路灯の明かりだけを頼りにじっと目を凝らして鳥の動きを待つ。すると,目の前を小さい鳥が横切った。植え込みの中ほどに現れたのは,ヨーロッパコマドリだった。しかし,カメラはホテルの部屋の中である。急いで部屋に戻り,妻を起こさないように気を遣いながらカメラをセットして再び外に出た。

クロウタドリ

 やがて,ホテルの2階の外れ辺りが騒がしくなった。目を凝らすと,バルコニーから垂れ下がった植物に数羽の鳥のシルエットが見える。黒い体にオレンジ色のくちばし。クロウタドリだ。

 ミラノの中心街からは少し外れているとはいえ,ホテルの周辺は準商業地域。そう簡単には鳥は見つかるまいと思っていたら,今,目の前に,10羽近いクロウタドリが群れている。その後の状況などまったく予想していなかったので感激し,とにかく写真を撮ることにした。しかし,暗いうえに鳥の体も黒。目立つくちばしにピントを合わせてストロボを使って写したが,あまりいい写りとは言えない。

 朝食をとり,再び表に出た。少し明るくなっていたのでわかったが,クロウタドリはその辺りにたくさんいた。ヨーロッパコマドリのほうは,残念ながら,その後は現れず,後ろ髪を引かれながらバスに乗り込み,市内観光に出発した。

 回の旅行は,正直言って気が進まなかった。妻にせがまれての,超過密日程観光名所強行連覇ツアーだったから。早朝にホテルを出発し,観光名所を巡り,ホテルに着くのは夕刻を過ぎてから。自由時間もほとんどない。つまり,鳥見をする余裕など全くと言っていいほど作れない旅行なのだった。

クロウタドリ2

 ずは,スカラ座広場,ビットリオ・エマヌエーレIIアーケード,ゴシック建築の代表とされるドゥオモの見物。鳥は見つけたが,広場に群れるたくさんのハト。次に回ったスフォルツェスコ城は,城の周りには樹木が立ち並び,鳥がいそうである。しかし,悲しいかな観光ツアー。バスは迎えの場所に移動してしまったので,単独行動をするわけにはいかない。おとなしくついていくしかない。

 城門を入ってしばらくいくと,城壁に動く鳥を見つけた。クロウタドリだ。城郭の中には木らしい木は見当たらないが,ツタの青い実を食べにきているらしい。当然,写真を撮る。

 これはちょっと期待できるかもしれないと思いながら,しばらく観光にいそしんでいると,いつの間にか城を出てしまった。

ズアオアトリ たところは公園風になっていて,樹木もたくさんある。ツアーのメンバーが記念写真を撮っている間に辺りを見回すと,潅木の中で何か動いている。シジュウカラだ。しかし,写真を撮ろうとすると,次の潅木に飛び移ってしまう。日本のシジュウカラと比べるとシャイみたいだ。

 潅木の反対側に回ってみても,シジュウカラは見つからず,スズメがたくさん飛び出した。シジュウカラにもスズメにも逃げられ,がっかりしていたら,1羽だけ残っている鳥がいた。しかも,あまり恐がっている様子はなく,潅木の陰で地面の何かをついばんでいる。潅木から出てきた鳥をよく見ると……,ズアオアトリ!。

 ここで時間があれば,さらにほかの鳥を見つけることもできただろうが,ズアオアトリを撮った直後に出発の合図。泣く泣くバスに向かう。

 次の目的地は,湖水地方,コモ湖である。


イタリア雑感1
車事情 イタリアといえばフェラーリやランボルギーニなどのスーバースポーツカーを生んだ国。しかもミラノのある北部地方はイタリア経済を引っ張る工業地帯。金持ちも多いはず。赤や黄色の平べったい車がブイブイ走っているのではないかと思っていたら,とんでもなかった。走っているのは,FIAT,PUGEOT,VW製の排気量1000〜1500cc程度の1.5BOXの小型車ばかり。古い車やでこぼこの車も多い。さらに,道の両側だけでなく,歩道にもずらり並んだ驚異的な路上駐車。しかも,前後のスペースはほとんどない。こんなところに高い車など停められるはずはない。
 歩行者は車の間を縫うようにして歩くしかない。しかし,マナーは思ったほど悪くなく。日本のように騒音を立てて走る車はほとんどないし,車同士はいざ知らず歩行者に対してけたたましくクラクションを鳴らす車も少ない。車社会が熟しているといってもよさそうだ。
 日本車が少ないのは,イタリアの自動車産業保護のために規制をしているためとのこと。民間企業ながら国に保護されているようなFIATの車は,国民には人気がないそうで,規制を解いたらアッという間に日本車だらけになるのを恐れているそうだ。ちなみに,たくさん見かけたのはFORDのSMART。日本でもたまに見かけるが,軽自動車よりも短いボディが路上駐車にはうってつけなのだそうだ。