CAIRO 3

 7時にベランダのカーテンを開けると,カイロの街はいくぶん朝もやに霞んでいたが,ガラス戸を開けた途端に,ラムセス・ヒルトンの13F(実際には,L,R,P,1,2……となるので16階に当たる)にあるこの部屋にまで喧騒が飛び込んできた。

 R階のレストランで朝食を済ませると,家族とは離れてそのままロビーに下り,外に出る。今日は旅行最終日。12:30の集合まではフリータイムになっている。

 まずは,道路向こう側のナイル河畔へ。ところが,これが大変。片側3車線の広い道路を横断しなければならない。そこには(どこでもだが)信号はなく,横断歩道もない。(そういえば,歩道橋などひとつも見ていない。)車はひっきりなしに走っていて,信号がないから流れが途切れることもない。車をひらりひらりとかわして渡っていく地元の人のまねはとてもできない。少しの間を見つけて,まずは中央分離帯へ。怖いのは3車線が突然4車線になってしまうことだ。ちょっとすき間があると猛スピードで前へ出ようとする車が多い。加速の遅いバスが道を塞ぐ格好になったところで,何とか無事にナイル河畔側に渡ることができた。

 渡るには渡れたが,川沿いにはフェンスがあって岸に下りられない。上流を見ても,下流を見ても,岸には植物がなく,鳥がいる気配もなさそうだった。

ナイル川 こで,ナイル川を渡ることにする。階段で高架になっている10月6日橋の上に行き,歩道を対岸に向かって歩く。

 橋上から見るナイル川の川幅は,思っていたほど広くはなかった。河川敷がないので,橋の長さだけなら秋ヶ瀬橋のほうがよほど長い。(実際は対岸だと思っていたのは中洲の島で,中洲とその向こうの水路の幅を入れると600mくらいになって秋ヶ瀬橋より長かった。ナイル川,ごめん!)橋の両端と中央には警官の詰め所がある。橋は重要な拠点なので,常に警戒しているわけだ。

 写真左は10月6日橋上から眺めた下流側。写真右は渡り終えてホテル(ラムセス・ヒルトン=中央付近の高いビル)を振り返ったところ。

カイロタワー遠望  を渡ると,東岸よりは緑が多くなった。しかし,川岸にはやはり出られない。そこでもう少し先へ進むことにした。ただ,地図を持っていないので,ホテルが見える範囲が限度だ。幸い宿泊したラムセス・ヒルトンは高層なので目立つことは目立つ。そこで,自分がどの位置にいるかわかるように,カイロののランドマークのひとつ,カイロタワーを目指す。

 写真の中央が高さ187mのカイロタワー。展望台がある。

 右側に立っているのは2人の交通警官。黒バイはBMW.手前は四輪バギーのパトロールカー?エジプトでも初めて見た。実のところ,こうやって警官を写すのにも勇気がいる。とがめられるか,バクシーシを要求されるか,いずれにしても避けたいところ。このときはスキを見つけて素早くシャッターを切った。

 階段で橋を下りて少し歩いたところに小さなモスクがあり,その脇の小公園風になったところで,またヤツガシラを見つけた。本当にどこにでもいる感じだ。写真も撮ったが,ヤツガシラばかりになるので割愛。

 イロタワーに着く直前の道の左右に,入り口の開いた公園風の林があった。しかし,よく見ると中にいる何人かの人たちは休んでいるふうではない。奥には温室らしきものもある。どうやら街中ではあるが農園のようだ。しばらくのぞいていると,鳥も動いているのが見えた。そこが何であるのか聞こうと思ったが,近くには誰もいない。黙って入ってとがめられると,言葉が通じないので弁明のしようがない。あきらめて,タワー方向に進む。

 タワーの前まで行くと,入り口には車止めがあった。人は入れそうだが,警官がうじゃうじゃいる。入り口に5人。中の広場の左に2人,右に2人,奥にもいそうだ。ほかに観光客らしき人がいないので,ちょっと入りにくい。(これが日本の警官のように拳銃だけぶら下げているならいいのだけれど,エジプトではライフルやら軽機関銃のようなものを肩からさげているからドキドキしてしまう。)

 もう少し先によいところはないかとさらに歩くが,そこから先は緑が減ってしまったので,しかたなく来た道を戻ると,道路の反対側から声をかけてきた人物がいた。タクシーの運転手のようだ。言葉はよくわからないが,手振りで「タワーが開いているから,見てこいよ。」と言っているようだ。何度も言うので,逃げる意味もあって,警官の間を抜けてタワーのある敷地に入った。

 

博物館の前庭のヤツガシラ ワーの敷地内では鳥の声が聞こえたが,それは鳥小屋の中にいるセキセイインコの声だった。ほかにいるのはハシブトガラスくらい。タワーの看板の上で「いらっしゃいませ。」とあいさつしているので,撮る。頭が黒いのはわかっていたが,胸の星形の黒いよだれかけが面白い。

 カラスが招く奥にはチケット売り場があった。のぞいてみると,登るだけで30LE,ドリンクとケーキ付きで40LEとある。1LE 30円で計算しても900円。さらにカメラ券が15LE。タワーの中から鳥の写真が撮れるわけではなし,ばからしいので早々とそこを出た。

 たが行くところがない。集合時刻の1時間前にはホテルに戻るつもりでいたから,残り時間は2時間弱。帰りにかかる時間を考えると,1時間半くらいしかない。そこで,先程の農園になんとか入り込もうと考えた。

 園の入り口で人が出てくるのを待つ。ナイル川を渡ってきたころはあまり人通りはなかったが,通勤時間になったのか,通行人が増えてきた。一様にウロウロしている怪しい東洋人を怪訝そうな目で見ていく。こういうのは苦手なのだが,背に腹は代えられない。

 慢してしばらく待っていると,若い農夫が二人,リアカーを引いて出てきた。後ろの一人につたない英語で,鳥の写真を撮りたいのだが入ってもいいか,と声をかける。しかし,彼は英語がわからないようだ。そこで,カメラを指差して,次に自分を指し,さらに農園の中を差して,「OK?}と聞いた。返事は「ノー」だった。

 それでもあきらめきれないので,またウロウロしながら次の人を待った。しばらくして,今度は少し年配の人物が現れた。先程の2人より少し身なりが良いので,期待できるかもしれない。今度は「英語は話せるか?」から聞いてみた。すると,答えは「ノー」だったが,少し後ろから来た人物を指差し,「彼なら話せる」という手振りをした。そこで,恰幅の良い後の人物に声をかけると,彼は理解してくれて,あっさり,「OK」を出してくれた。

農園のヤツガシラ 果から言ってしまえば,ここで新しく見た鳥は緑色の大きなインコだけ。ナツメヤシの間をギャーギャーとけたたましい声で鳴きながら小群で飛び回り,いかにもアフリカっぽいが,残念ながらエジプトの図鑑には載っていない。どうもカゴ抜けのようだ。

 れでも,物売りに悩まされることなく,ゆったりした鳥見ができたことがここでの収穫。もう一つは,ここにもやはりいたヤツガシラを,ゆっくり見られたこと。それほど広くない農園の中に,少なくとも3〜4羽いたヤツガシラは,興奮すると開くという冠羽を何度も見せてくれた。

農園のヤツガシラ実際はもっと小さく写っているが,冠羽の様子やくちばしに何かくわえているのが見えるようにトリミングをした。

※ この2枚のヤツガシラは,画面の大きさによっては重なって見えるかもしれません。

農園のヤツガシラ リータイムが過ぎて,ほぼ予定通りにホテルに戻る。カードキー方式の部屋の鍵が開かず,ノックをしても誰も出ず,廊下に出してあるはずの荷物もなく,ロビーにもツアーメンバーの姿がなく,もしかしたら集合時刻を間違えて置き去りにされたかと冷や汗をかいたが,12:30,無事?ホテルを出発した。昼食を川沿いのレストランで済ませてからカイロ空港へ向かう予定だ。

 ストランではこれまでと似たような内容。しかし,これもエジプトでの最後の食事となる。じっくり味わおう……,なんていう気持ちはさらさらない。水上レストランへの小さな橋を渡るとき,100mくらい下流に,サギがいるのを見たからだ。食べながらも気持ちはナイル川の上に。食後のコーヒーなんて頼まなきゃよかった……。

 食べ終えるとすぐに外に出た。予想はついている。これまで見てはいたが若鳥しか撮っていないカンムリサギだ。レストランの下流側に行ってカメラをのぞくと,やはりカンムリサギだ。しかし,遠い。それでも何枚かシャッターを切る。サギはこちらに向かって少し飛んで,また水草の上に降りた。飛ぶと白い翼と赤茶色に見える胸のコントラストがきれいだ。

 最後のメンバーがバスに乗るまではと粘っていたら,うれしいことにカンムリサギはレストランの上流側へ飛び,岸から20mほどのところにある水草に降りた。逆光で上手くは撮れなかったが,一番まともなのがこれ。右側は,飛んで,降りて,また飛んだところ。

 のカンムリサギを最後に,エジプトでの鳥見は終わり。(いや,正確には空港の待合室に入り込んで飛び回っていたイエスズメが最後だが……。)カイロ空港では,心配していた搭乗の遅れもなく,沈みかけた太陽を見ながらの離陸となった。これまではあまり関心を持たなかった国,エジプトだったが,思いがけない鳥との遭遇もあり,また見知った鳥との出会いもあり,今までよりも身近に感じられるようになった。ありがとう,エジプト。そして,鳥たち。


エジプト雑感7
鳥見事情 「エジプトは鳥見に適しているか。」と問われれば,答えは「YES」であり「NO」だ。

 「YES」の理由は,砂漠の国という印象はあっても,さすがナイル川の恩恵は鳥にも与えられて,ナイルの水が行き届く範囲では鳥はしっかり,しかも日本よりよほど多く生息しているからだ。日比谷公園の芝生の上に何羽ものヤツガシラが降りていることを想像すればよい。
 日本とエジプトでは都市の規模が比較にならないだろうと思ってはいけない。カイロ市は人口1600万人,しかも,人口はナイル川流域に集中しているから,人が住める土地での実質的な人口密度は日本より高いかもしれない。カイロ市は現在も膨張している。世界各地で土地の砂漠化が問題になっているが,ここでは砂漠を都市が侵食している。しかし,日本のようにコンクリートで覆ってしまうわけではない。都市部でも主要道路以外は舗装されていないし,砂漠地帯でも主要道路の両側は緑地化を進めている。ここでは,都市化はある意味で緑地化でもある。下手をすると,鳥から見れば日本のほうが環境が悪化しているかもしれない。

 「NO」の理由。ひとつは鳥の種類の問題だ。エジプトの鳥は430種,そのうち留鳥は150種と図鑑にあったが,「Common BIrds of Egypt」に絵入りで載せられているのは105種。ナイル川流域と地中海沿岸,紅海沿岸に鳥見のポイントがあるそうだが,数百km離れて点在するから,そう簡単には回れそうにない。そして,どこかに絞れば同じ鳥ばかりを見ることになりそうだ。
 それに,観光地での警備の厳重さから,治安,特にテロ問題がすっかり解決したわけではなさそうなので,注意が必要だ。また,軍事施設の近くではビデオや望遠レンズの使用は許可されていない。この軍事関連の施設というのがやたらに多そうで,空港はもちろん,ダム,橋,工場などもそれに当たるから,気をつけなくてはならない。ちなみに,持っていった双眼鏡は一度も使わなかった。(アラビア語の看板だけではそこがなんだかわからないし……。)
 そして,本文でも書いた,物売り,警官などがちょうど良いところで邪魔に入る。
 各鳥見ポイントの,広い庭に水辺や樹木がたくさんあるホテルに泊まって,その庭を散策しながら鳥見ができれば申し分ないが……。

・・・・・・次はまとめ・・・・・・