ASWAN

 スワンでの宿泊はイシス・アイランド・ホテル。ナイル川に浮かぶ小島に建っている。島全体に緑が豊かで,いかにも鳥がいそうだ。事実,起床後すぐに開けた窓からは,たくさんの鳥の声が聞こえてきた。いつでも廊下に出せるように急いで荷物をまとめ,レストランでの朝食もかき込むように済ませてホテルの外へ出た。午前7時15分。タイムリミットの8時45分まで1時間半が勝負だ。

ツバメゲリ ずは,エントランスの階段を下りて左側へ向かう。前日にファルーカで渡ってくるときに,ヤマセミが飛んだ方向だ。ナイル川の水面まで2mほどの高さの歩道を歩く。両側の植え込みや低木にはイエスズメが群がっている。チフチャフの姿も見える。でも,今はヤマセミが目当て,歩みを速める。

 50mも行かないうちにその姿を見つけた。しかし,それは,歩いていたすぐそばの木の枝から逃げていく姿だった。(そんなところにいるとは全く思っていなかった。)

 がっかりしながら,今度は慎重に歩く。何がいるかわからないから,きょろきょろしながら歩くのだから,はたから見たらかなり怪しい人物と映っただろう。しかし,その甲斐あって,水辺にいる1羽の鳥を見つけた。ツバメゲリだ。でも,顔立ちはツバメというよりコガラに似ているかもしれない。大きさはタゲリよりちょっと小さい程度。飛ぶとコントラストが美しい。

 ツバメゲリを撮ってから,ちょっとウキウキしてまた用心を怠って歩いていたら,左手から1羽の小鳥が飛びだして,歩道の脇の岩の上に乗った。イエスズメかな,と軽く目をやったのだが,一瞬その目を疑ってしまい,カメラを構えることができなかった。オガワコマドリだったのだ。我に返って慌ててカメラを構えたら,気配を察したオガワコマドリはヤブに逃げ込んでしまった。

 しばらく粘って4度姿を見たが,写真は撮れなかった。

アフリカヒヨドリ ガワコマドリを見失ったヤブの上に飛んできた鳥がいた。茶色い上面,白っぽい下面,顔は黒っぽい。アフリカヒヨドリだ。落差は大きいが,これも初めてだったので撮る。

 日本のヒヨドリは28cmあるが,こちらは19cmとかなり小さい。動きは日本のと同様だが,大きさや形は,以前フィジーで見たシリアカヒヨドリ(Red-vented Bulbul,20cm)に似ている。小さい分だけ,また,日本のヒヨドリのようにはうるさくないので,いくぶん可愛らしく見える。

 このヒヨドリの英名は,図鑑によって異なる。旅行の最終宿泊地でようやく買えた2冊の図鑑は,両方とも「The American University in Cairo Press」発行となっているが,純然たる英語版の「BIRDS OF EGYPT AND THE MIDDLE EAST」では「Garden Bulbul」で,英語とアラビア語併記の「Common Birds of Egypt」では「Common Bulbul」となる。「Common」って何だ?

 日本でいえば「Common」のヒヨドリは,英名「Brown-eared Bulbul」となる。世界に共通する学名で呼ぶのは現実的ではないので,それぞれの国の名前で呼ぶが,どうも混乱してしまう。

ヤツガシラ れはともかく,そこから少し行くと浅い水面があり,沼地のようになっていた。たくさん,とは言えないが,あちこちに鳥の姿が見える。そこにいた鳥は,写真左から,コサギバンカンムリサギ若鳥,ムラサキサギ若鳥。


アフリカムラサキバン して,1羽の色彩鮮やかな鳥が,水草に頭をつっこんでエサをとっていた。アフリカムラサキバンだ。図鑑には英名「Purple Gallinule」とあるが,これを調べると額の白い「アメリカムラサキバン(Porphyrio martinicus)」になってしまう。額板が赤い「アフリカ……」の学名は「Porphyrio porphyrio」で英名には「African」をつけたほうが判りやすそうだ。

 このアフリカムラサキバンの動きは,日本のバンやオオバンと違ってかなりゆったりしていた。最初に見つけてから写真を撮って去るまでに,2mも動いたろうか。さすがアフリカ。時間の流れが違うか……。

 その沼地にはほかに,アオサギタカブシギもいた。また,沼地の上にはたくさんのツバメが舞っていたが,学名は日本のツバメと同じだが,咽だけではなく翼の裏も腹も赤かった。

 さらに進むと,歩道の突き当たりにホテル専用の農地があった。ちょっと雰囲気の違う鳥がいそうだったが,農作業をしている人が何人もいたので,遠慮した。(本当は,自分が何の目的でそこに入りたいのかを説明する自信がなかった。フロントやレストラン,ルーム担当以外の従業員は,英語を理解できない人が多いようだったから。自分もだけれど……。)

ヤツガシラ 園でUターンして,ホテルの表側を行こうとしたら,途中で道がなくなっていた。行く手を遮るコンクリート壁は低いが,乗り越えて道があるわけではなさそうだし,その近辺ではベニスズメしか見かけないので,来た道を戻る。途中,ホテルをの中に入っていくルートがあったので,近道を決め込んだら,ホテルの中で迷子になり,従業員に教えられた方向へ進んだら,入ったところから20mほど先の場所に出たという,間が抜けた話。

 なんとか表側に出て,もう一度オガワコマドリを探しに行ったが,逃げていく後ろ姿を見ただけ。ヤマセミも撮れず,そろそろ時間切れ。部屋に戻らなければならない。

 ろ髪を引かれる思いでエントランスに向かうと,すぐ手前でヤツガシラが芝生に降りているのを見つけてしまった。時間がないのに……。でも,当然撮る。

 ヤツガシラは間近で見ると,日本で見たときよりも小さく見えた。これは双眼鏡を使ったのと,肉眼で見ているのとの違いかもしれない。くちばしが普通の長さならムクドリ程度の大きさしかなさそうだ。

 ヤツガシラの写真を20枚近く撮ったところで本当に時間切れ。ロビーでの集合時刻が迫ってきた。本当は冠羽を開いたところを撮りたかったが,このまま置き去りにされても困る。さて,切り上げよう……としたら,すぐそばにツバメゲリが降りてきてしまった。

ツバメゲリ バメゲリは,ケリという名前がついてはいるが,足が長いことをのぞけば,雰囲気はムナグロに近い。もちろん,チドリ科だから近くて当たり前だが……。目が赤いところは日本にいるケリに似ている。

 その目の赤いところを写そうと,向きが変わるのを待ったのだが,同じポーズで固まることが多く,なかなか思い通りには動いてくれない。動いてほしくないときには動いて,動いてほしいときには止まったまま。よくあることだが,イライラさせられる。

 それでも6枚ほど撮って,ロビーへ走る。なんとかギリギリのところで間に合った。

 島に入るときはファルーカだったが,戻るときはモーター付きボート。ボートが岸を離れるときは,撮りきれなかった悔しさが込み上げてきた。これがツアー旅行の悲しさ。(もっとも,一人で来る度胸はないが……。)

 ボートが動き出してからも,何か鳥はいないかキョロキョロするが,何も見つからないまま,あっという間にバスが待つ岸へと着いてしまった。

ヤマセミ ころが,ボートから降りて,岸に上がったところで,近くの護岸の上にヤマセミがいるのを見つけてしまった。幸い,みんなの荷物はまだ運び上げられていない。

 「しめた!」と,一度しまったカメラをバッグから取り出し,ヤマセミを狙う。しかし,どうも場所が悪くて絵にならない。それでも島では豆粒程度にしか撮っていないので,何回かシャッターを切る。

 すると,ヤマセミは乗ってきたボートの隣のボートの舳先に飛び移った。後ろのバスを気にしながら急いで何枚か撮ったのがこの写真。

 よく見ると,日本のヤマセミとは違う。日本のヤマセミの細かい模様,特に冠羽と目の後方,そして胸の部分が,斑ではなく黒く見える。後で調べたらヒメヤマセミ(Pied Kingfisher)となっていた。確かに大きさもヤマセミ(Greater Pied or Crested Kingfisher)の38cmに対して25cmとかなり小さい。

 ともあれ,エジプトのヤマセミは何とか撮ることができた。


エジプト雑感4
トイレ事情 エジプトについて最初にトイレに行ったのはカイロ空港でだった。トイレに入って驚いたのは,ドアが開いていた個室の便器が洋式ではなく,日本のものに近かったこと。ただ,浅く,金隠しがない。普段から洋式トイレに慣れてしまっている身としては,あまり使いたくない形だ。そこで,隣の洋式に入ったが,お世辞にもきれいとは言い難かった。さらに,トイレの不潔さはどこも似たようなもの。ある観光地では,小用を足していたら朝顔の下のパイプに穴が開いていて,たった今我が身を離れたばかりの小水が細い糸のように左の便器の足下に落下していた。左に立たなくて良かった……。

 そして前もって知ってはいたが,トイレの入り口付近には人が立っていて,トイレットペーパーを小さくちぎって渡しては,指をこすりあわせてチップ(正確にはチップではなくバクシーシ)を要求するのだ。このバクシーシというのは富める者が貧しい者に施しをして徳を積むというイスラムの教えからくるものだそうなのだが,明らかにそれ目当てで立っていられるのも気分的にはよくない。無視しても構わないそうだが,中にはトラブることもあるというので,君子危うきに近寄らず,徳を積むつもりはないが50ピアストル(1ポンドの半分=約15円)を渡してしまう。これが,観光地でもドライブインでも,またどこの空港でも,同じ光景が繰り広げられる。(それが嫌なので,あまりトイレに行かなかったような気がする。)

 安心して入れるのは,ホテルのトイレくらいだった。(余談だが,ドライブインのトイレの中にはやたらに小便器の位置が高いのがあった。嫌みか!)  

・・・・・・次はルクソール・・・・・・