ALEXANDRIA

 て,一夜明けて,いや,明けないうちの出発で,バスはエジプト北部,地中海デルタ地帯のアレキサンドリアへ向かう。220kmの道程を片道3時間ほど,往復6時間かけてカイロから日帰りの予定だ。じっくり鳥見,なんて全く期待できない。


ハクセキレイ 漠ロードを1時間半ほど走ったところで,やっとトイレ休憩。やっとと言っても,別にトイレに行きたかったわけではない。この日のような日程では,重要な鳥見タイムになる。

 トイレに向かうほかのツアー客の後には続かず,ドライブインの庭のほうに足を向ける。バスが止まったときから,鳥の動くのが見えていたからだ。ただ,そこは芝生になっていて,背の低い木が数本あるだけ。動いていたのは,やはりイエスズメだったが,しばらくすると,植え込みのサボテンの上に白っぽい鳥が飛んできた。ハクセキレイだった。

 日本のハクセキレイと異なるのは,顔では過眼線がないことぐらいか。しかし,雨覆が白ではなく,背中と同じような灰色なので,日本の図鑑に出ているホオジロハクセキレイやシベリアハクセキレイでもなさそうだ。まあ,撮れるものは全部撮っておこうと決めているので,とにかく撮る。(後で調べたらタイリクハクセキレイというのだそうな。)

 ドライブインの庭で見たものは,イエスズメとハクセキレイ。隣の建物のそばの木では,カワラヒワらしき鳥と,前日に見たチフチャフの姿を見た。さらに,奥のほうの砂漠との境辺りの木には,もう少し大きい鳥が見えたが,そちらまで行く余裕はなかった。

アレキサンドリア 左から,アレキサンドリアのカタコンベ(1〜2世紀のキリスト教徒の地下共同墓地)のレリーフ,その奥の墓(今風にいえば地下マンション墓地),ポンペイの柱とスフィンクス,カイトベイ要塞。

 もともと空模様は怪しかったが,この要塞を訪ねたころから雨が強くなった。

クロジョウビタキ

 ビ臭いカタコンベから地上に出たときには,ほっとした。第一,地下には鳥がいない。早速,鳥探しを始めたが,ほとんどイエスズメとワライバト。ムクドリのような鳥がいたのだが,追いかけようとしたら警官に「これより奥へ行ってはいけない。」と止められてしまった。

 ポンペイの柱に着いたときには,そろそろ空模様が怪しくなってきた。とりあえず柱とスフィンクスの説明を聞くが,頭の中はそこに登っていく途中の植え込みにいた小さな鳥のことで占められていた。説明が終わるとすぐに階段を下り,植え込みを探すが,すでに鳥の姿はなくなっていた。

 しかたなく,別の道を通って柱のほうに戻ることにする。さっきから外壁の上に何羽かの鳥がとまっているのが見えていた。近づいてみると,クロジョウビタキだった。数枚の写真を撮ったが,もう少し近づいて撮ろうとしたら,遺跡の窪みの中から数頭の野良犬が飛びだしてきて,ワンワン吠え出した。おかげでクロジョウビタキははるか彼方へ飛んでしまった。

 物売りといい,警官といい,野良犬といい,エジプトの観光地で鳥の写真を撮るには,本当に邪魔者が多い。

 その後は海辺のカイトベイ要塞というところに行った。海のそばならこれまでとは違う鳥がいるだろうと,少し楽しみにしていたのだが,海が見えた途端に,それまでポツポツと落ちていた雨が本降りになってしまった。次いで訪ねたのはグレコローマン博物館で,置物のハヤブサはあっても,生きているのは中庭のイエスズメだけ。今日はこれで終わりか?

チョウゲンボウ レキサンドリアでの見物をすべて終え,あとは昼食後にカイロに戻る予定。帰りがけに寄るドライブインでもたいした成果は望めそうにない。

 昼食をとるレストランの前にバスがとまる。そのとたん,バスの前方を2羽の鳥が横切った。ヤツガシラだ。ヤツガシラはレストランの生け垣の上にとまったが,すぐに向こう側に消えた。これはもしかしたら撮れるかもしれない。

 食事はたいしたものではなかったが,その後に期待がふくらみ,食が進む。食べながら,外の様子が気にかかる。

 ほかの誰よりも早く食べ終わり,庭に出る。ところが,ヤツガシラの姿はどこにもない。しかし,その代わりに,閉じたパラソルの上にチョウゲンボウがとまっていた。

 チョウゲンボウは,時折,雨に濡れた芝生に降りては,何かをくわえ,またパラソルの天辺にとまる。10mくらいまで近づいても,すぐに逃げる気配はない。エジプトに来てから最も落ち着いて撮れた1羽だった。こういった気の良い鳥に対しては,こちらも情が移ってしまい,猛禽とはいえ可愛らしい鳥だな,などと思ってしまう。

 れにしても,観光ツアー旅行の悲しさ,レストランの前にいたヤツガシラ,それに水路にいた背中が黒っぽく見えるサギ,汽水域にたくさんいたヤマセミらしき鳥,砂漠ロードの両側に時々現れるモズの仲間,みんなただ見ただけに終わってしまった。(ゴミでいっぱいの水路にいたアマサギは撮る気はしなかったが……)これが鳥見のための旅行だったら,ほとんどの鳥を撮ることができただろう。そう思わせるほど,地中海デルタ地域の鳥の相は豊かだった。


エジプト雑感2
ゴミ事情 ギザのピラミッド周辺で風に舞っていたのがビニル袋だったと書いたが,遺跡でさえそうなのだから,ほかは以て知るべし。道路の両脇に吹きだまったゴミの山。たばこの吸い殻は星の数を越えるのではないかと思えるほど。農耕地の周りにもゴミが散在している。その中でも特にひどいのは,カイロの街中を流れる水路だった。
 元は同じ幅の水路だったと思うが,ところどころに幅が狭くなったところがある。よく見ると,川の中に突き出しているのは,捨てられたゴミなのだった。さらによく見ると,川岸のほとんどがゴミに覆われているところもある。目立つのはやはりビニル袋だ。

 この光景を見ると,ちょっと前の柳瀬川の川岸を思い出してしまう。まるで地層のように積み重なったゴミ。洪水によって削られた川岸からは年代物のキューピー人形が飛び出していることもあった。それをナイル川の規模に拡大したと思えばちょうどよいくらいの量だ。

 もちろん近代設備もあるが,エジプトの一般の人々の暮らしぶりは,太平洋戦争後の復興期(といっても私は直接は知らないが……)と東京オリンピック以後,昭和40年代の高度経済成長期の日本を混ぜたようだ。国の発展が第一で,まだ環境にまで気を配る余裕がないのかもしれない。しかし,そのツケは必ず回ってくるはずだ。砂漠地帯に肥沃な土地をもたらしたナイル川。その恩恵を受けている国なのだから,もっと水を,環境を大切にしてもよさそうなものなのに……。

・・・・・・次はアブシンベル・・・・・・